資料 第2回改正少年法運用状況調査の結果と分析
2001年11月20日 |
全司法本部少年法対策委員会 |
全司法本部少年法対策委員会では、2001年4月に少年法が改正されたことを受け、その後の改正少年法の運用状況の調査を定期的に行っています。第2回改正少年法運用状況調査は2001年5月から8月までの改正少年法の運用状況を全国的に調査したものです。11月18日現在、全国50庁の家庭裁判所のうち36庁から回答を得ています。
1 検察官関与
検察官関与決定のあった事件 14件
検察官から関与申出があって関与決定がなかった事件 5件
検察官関与のあった事件について
・ 否認の態様 図1
・うち合議 5件
・審理期間 21日〜28日 11件
29日〜42日 2件
係属中 1件
・審判期日の回数 図2
・送致事実と異なる事実認定をしたもの 2件
<各地からの声(順不同;以下同じ)>
・立会った検察官は、検察官の職務から一歩も逸脱することなく、事実認定のための主張をしていた。
・調査時、少年は検察官が出席するということについて「緊張する」とこぼしており、構えたような格好になっていた。
・特に少年の情操を害する感じはなかった。
・今回の検察官関与は形を整えただけという印象が強い。従って淡々と審判は進行し、2回の休廷をはさんで実質2時間くらいで終了した。
・事実認定につき、裁判的雰囲気だった。
・3人の裁判官、書記官、検察官、付添人、調査官と大勢のスタッフが狭い部屋に入っており、とても窮屈であった。通常の単独用の審判廷で合議審判を行うのは狭すぎるように感じた。
<解説と問題点>
検察官関与は「非行事実の認定上問題がある事件について、より適正な事実認定をするため」として新設された制度です。しかし、検察官の審判立会は少年審判の良さを失わせる危険性を常にはらんでいます。審判の場で多くの大人に囲まれて糾弾されるような感じを受ければ、少年は自分の言葉でじっくり語ることはしにくくなり、審判を通して少年が自分の行為をしっかりと振り返る効果は期待しにくくなります。検察官の関与は本当に深刻な事実の争いがある事件で限定的になされるべきものです。
今回、全国からは14件の検察官関与事件の報告がありました。一方、家裁に検察官からの関与申し出があっても、事実の争いが大きくないことなどを理由に関与決定をしなかったケースは5件報告されています。
家裁に送致された段階では事実認定に特に争いがなかったにもかかわらず、検察官関与決定をしたケースもありました。また、事実に争いがあって検察官が関与したケースでも少年が全面的に否認しているケースはごく少なく、殺意の否認など一部を否認しているケースが多数を占めました。また、検察官が立会わなければ事実認定ができないような複雑な事案であるはずなのに、半数は審判期日が1回しか開かれておらず、「形を整えただけ」との感想も出されています。
検察官が関与する審判は、できる限り少なくすべきと考えますが、1回の審判で結論が出せるような事案になぜ検察官が関与しなければならなかったのか、関与決定の理由が問われるところです。検察官関与の必要性については、家庭裁判所が慎重に吟味し、検察官からの申し出をそのまま安易に受けるような姿勢にはならないようにするべきです。どの程度事実についての争いがあった場合に検察官が関与するのか、今後さらに注目してチェックを続けていく必要があります。
2 合議となった事件 10件
<各地からの声>
・合議体と担当調査官のカンファレンスは数回行われたが、合議体の考えは終局まで外に出せないという決まりがあるとのことで、調査官からの経過報告を合議体が聞くだけに終わってしまった。合議体から調査のポイントや処分の見とおしについてなど、多少とも聞けると調査がやりやすい。
・打合せで時間を取られる。3人裁判官を集めるのは大変。
<解説と問題点>
これまで少年事件の審判はすべて裁判官1人で行われてきましたが、今回の改正で家裁に初めて合議制が導入され、3人の裁判官が担当になる場合もでてきました。新しい制度であるため、裁判官も調査官も合議という態勢の中でどう動いたらいいか戸惑った面が一部あるようです。これは特に合議事件でのカンファレンスのあり方について言えることです。カンファレンスとは事件の調査審判を進めるにあたり、裁判官・調査官・書記官などその事件の担当者が情報・意見交換をすることです。これまでの家裁の審理の中では、裁判官と調査官が率直に意見を表明し合い、議論をし、問題点についての認識を共有しながら少年の処遇を形作ってきています。裁判官と調査官の間でのカンファレンスが十分に行われることで、家裁の調査・審判の流れが効率的かつ効果的にできるのです。
ところが、刑事事件などと同じような感覚で、「合議で裁判官が述べたことは秘密」という考えが強くはたらき、裁判官それぞれが事件をどのように捉えているのか、何がポイントと考えているのかを調査官にも明かさなかったケースがありました。調査官は裁判官の考えが掴めないまま調査をし、カンファレンスの場でも一方的に説明することになったという報告を受けています。
裁判官・書記官・調査官がお互いに十分な意思疎通をはかりながら円滑に事件に対処していけるような方法をこれから作っていく必要があります。
3 いわゆる原則検送該当事件 25件
うち検送11件・少年院送致 9件・その他(移送3件・保護観察1件・係属中1件)
<各地からの声>
・原則に従わず、保護処分決定をなす場合、検送しない、あるいは刑事処分が不適当である理由を調査票意見欄に明記する必要がある。しかし、検送が不適当となるその根拠となり得るものとは一体なにか?いかなる要因、論理があれば、「原則」を超克することができるのか?
・少年の資質を考えると、矯正可能性はあると思われた。しかし、共犯者との処分の均衡や事案の重大性を考慮し、検察官送致の意見を書いた。保護処分を1回は受けさせてあげたい少年であり、気になっている。
<解説と問題点>
「故意の犯罪行為で人を死亡させた少年については事件を検察官に送致して刑事裁判、刑事処分を受けさせる」との規定が今回の改正で盛り込まれましたが、この規定にはただし書きがあり、調査の結果、犯行の態様、少年の性格などから刑事処分以外の措置が相当と認められるときは保護処分等を考えることになっています(少年法20条 2項)。事案の重大性だけから単純に検察官送致をする扱いが一般化するようでは、少年ひとりひとりの問題に対処していこうとする本来の少年法の理念が危うくなるので、このただし書きがどのように実際の運用で使われるかが重要になります。
「どのようなケースがただし書きに該当するのか」が最も多くの担当者を悩ませている問題です。矯正可能性はあり、保護処分歴もなく保護処分を受けさせてあげたい、と思いながらも処分の均衡や事案の重大性を考えて検送意見を書いた調査官、要保護性が小さい場合はむしろ事件への関与が薄くても責任の重大性が優先するのかと迷った調査官など、担当者はそれぞれに悩みました。
もともと20条 2項の法律の規定が、少年の健全育成という少年法の理念と相容れないものであることが、具体的事例を通して改めて浮き彫りになっていると言えます。
4 観護措置の更新が2回以上になった事件 5件
更新 2回 29日〜42日 3件
更新 3回 43日〜56日 2件
5 被害者からの各種申出関連
<各地からの声>
・送致を受けてから決定まで短いと被害者が申し出る機会が制限されるのではないか。
・事件係属中のものにつき、保護者の名前等は身上にわたりマスキングしてしまうので、当事者にさらに結果通知申出を出してもらったことがある。
・マスキングが大変である。1月に4、5件程度の申出があり、対応窓口は大変である。
・マスコミ等に事件内容や審判期日等が漏れてしまい、対応に苦慮した。
<解説と問題点>
今回の法改正で被害者への配慮の充実に関する規定(意見陳述・記録の閲覧謄写・結果通知)が設けられたことは評価できる点です。しかし、増員などの手当てのないまま制度が導入された点には問題があります。
閲覧・謄写申請に対しては、許可する部分を確定し、許可しない部分のマスキングをする等の作業が書記官をかなり忙しくさせています。
また、一部ではありますが、被害者が家裁から得たと考えられる情報をマスコミに伝えたり、ビラにして配布したりした例が報告されています。情報の開示を受けた被害者に法律に基づいての行動の自粛を促すようなことも家裁側としては考えていく必要があるのかとも思います。
6 観護措置への異議事件
<各地からの声>
・申立が夕方になり、決定が夜遅くになった。当直体制がなく、合議も構成できない支部では、連絡員の負担が大きいと思われる。
<解説と問題点>
少年を家庭裁判所での処分を決めるまでの間、鑑別所に収容する観護措置に対して、少年の側から異議を申し立てることができるようになりました。今回の改正の中で評価できる点です。
ただ、観護措置への異議申立に備えての夜間・休日の当番態勢を整えるため、各地で実質的労働強化が行われています。増員、待遇改善など十分な手当てが待たれます。
7 裁判官・付添人の姿勢
<各地からの声>
・弁護士の意識が高まり、積極的な関与が期待できるようになったが、刑事弁護的発想(刑の軽減追及など)等も目につくようになった。
・はじめから付添人が検送を前提に考えており、被害弁償や民事訴訟に有利になるよう、むしろ地裁で事実を争い、共犯者の責任を少しでも重くしようと動いていたケースがあった。
・合議という地裁的な要素が入ってくると、裁判官の姿勢自体も地裁の刑事的になりがちな印象を受けた。
<解説と問題点>
裁判官・付添人ともに刑事的な姿勢や発想で動く傾向が強まっているようです。要保護性よりも非行事実に重きを置いた判断をしたり、これまで以上に検送に傾斜した決定をする裁判官が出ていることが報告されています。
弁護士の意識が高まり、積極的な関与を期待できるようになったとの報告のある一方で、刑事的な関わり方をし、刑の軽減追求、当初から検送をむしろ希望するような活動の仕方をする付添人もいます。今後、付添人のつく事件は増加していくものと思われますが、付添人に少年事件での考え方、感覚などをどこまで理解してもらえるか、は非常に重要な点です。
「改正」少年法運用状況 (2001.4.1〜9.30) |
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人員 |
逆送 |
保護処分 |
(過去10年間の
平均逆送率) |
家裁への送致人員 |
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約14万人 |
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14歳・15歳逆送 |
. |
0人 |
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16歳以上の原則逆送 |
総数 |
37人 |
27人 |
10人 |
殺人 |
4人 |
4人 |
0人 |
24.80% |
強盗致傷 |
4人 |
4人 |
0人 |
41.50% |
傷害致死 |
29人 |
19人 |
10人 |
9.10% |
合議制 |
11人 |
(最高裁のまとめ) |
検察官関与 |
関与人員 |
17人 |
うち国選付添人 |
4人 |
抗告受理申立 |
0人 |
被害者関係 |
意見陳述・書面提出 |
67人 |
審判記録開示 |
253人 |
審判結果通知 |
236人 |
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