少年法制改正の前に
9月8日、少年法制の改正が法制審議会に諮問された。少年法制改正要綱案の重要な点は次の4点にまとめられる。すなわち、(1)触法少年による故意の死亡事件は児童相談所から原則的に家庭裁判所へ送致、(2)触法少年の事件に対して警察の調査権を認める、(3)少年院法を改正し、14歳未満の少年であっても、特に必要な場合に少年院への収容を可能にする、(4)保護観察の順守事項を守らない少年は施設収容を可能にする、以上4点である。 上記4点の問題点は、通信9月号で石井先生が詳細な検討を加えているので、ぜひそちらを参考にしていただきたい。 ここでは、「14歳未満の少年による凶悪な事件が相次いでいる」という前提を、警察庁の統計をもとに崩してみたいと思う。 ●統計から見る現実 警察庁「少年非行等の概要(平成16年上半期)」によれば、今年(2004年)上半期の触法少年による凶悪事件の補導人員は95名である。内訳は、殺人3名、強盗5名、強姦3名、放火84名である。補導人員の総数が9194名なので凶悪犯の占める割合はたったの1%である。はたしてこれらの数値は少年法制を改正しなければならないほどの深刻な数値なのだろうか。2004年の最新の数値が上半期なので上半期で比較検討することにしたい。上記資料と「少年非行等の概要(平成15年上半期)」をもとに以下の表を作成してみた(※1)。 上記の表からも明らかなように14歳未満の少年による凶悪な事件が相次ぎ、少年法制をゆるがすほど事態は深刻化したとは言えないのではないだろうか。また、上半期だけでなく通年でも1994年から2003年の10年間、補導人員のうち凶悪犯の占める割合は0.7%から1.0%の間を推移(1)しており、とくに凶悪な事件が相次いでいるという事実は認められない。なお、粗暴犯についても2001年から補導人員、構成比ともに減少傾向であり、凶悪化・粗暴化という事実は認められない。 ●むすびにかえて 触法少年による殺人事件は年間数名であるがゆえに、事件があれば必ず大きく報道され、社会の注目が集まる。つまり数少ない目立つ事件であるからこそニュースとしての価値があり、少年犯罪の凶悪化、低年齢化が印象づけられるにすぎない。実際には凶悪犯、粗暴犯ともに増加傾向ではないのだから、報道に際して上記のような統計も一緒に載せてこそ公正な報道であると思う。しかし、現状では少年事件に限らないが、捜査側の主張が真実として報道されてしまっている。その結果、警察に都合の悪い少年法制が悪者にされてしまって、それを改正して終わりにしようとなってしまう。そして警察の権限だけが拡大していってしまう。事実、文部科学省も「児童生徒の問題行動対策重点プログラム」の中で、学校教育に警察が介入することを促進しようとしている(※2)。 少年事件においてもっとも大切なことは、「どうやったら厳しい処分を下せるのか」と法律を改正することではない。その少年にとって今何が一番必要なのかである。その前提として事実を明らかにすることはもちろん否定しない。しかし、触法少年に関して事実解明のプロがはたして警察なのであろうか。それはほんらい児童福祉の仕事ではないのか。事件を起こしてしまった子どもたちと一緒に寄り添い、たとえゆっくりでも事件のことを考えていくことのほうが、長期的には事実解明にも寄与するのではないか。草加事件や山形マット死事件などが、警察が必ずしも少年事件の事実解明のプロではないことを証明しているのではないか。 (※1) 警察庁「少年非行等の概要(平成15年1〜12月)」24頁参照。なお、同資料によると2003年は通年では刑法犯21539名、凶悪犯212名となり構成比は1.0%となる。警察庁HPを参照。 (http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm) (※2) 文部科学省「児童生徒の問題行動対策プログラム(中間まとめ)」。このプログラムでは学校と関係機関の連携ということが強調されているが、関係機関とは警察を主に想定していることは明らかに思われる。詳細は文部科学省HPを参照。 (http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2004/04082402/002.htm) |