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【解説】少年法に関わる国際人権文書
現在の少年法は、1948年に成立(施行は1949年)しました。1947年の教育基本法などと同様に、日本国憲法の下で、一人ひとりを大切にすることを願って作られました。このことを少年法第1条では「少年の健全育成を期す」という言葉で表しています。 このところ、少年法は廃止すべきであるとの意見がありますが、子どもの権利条約では、「特別な保護措置」として罪をおかした子どもが対象になっており、そのための手続として少年司法が位置づけられています。ですから、批准国はこれに沿った少年司法が必要なのです。 子どもの権利条約(1989年採択 日本の批准は1994年)では、子どもの最善の利益を基本としています。そして、子ども自身が自分で人権を行使するということなのです。そのことによって、子どもは自立に向って成長していくという考え方に基づいています。つまり、子どもに対するあらゆる手続で、最大限の権利保障をしてこそが、子どもの特性に応じた成長と発達を実現するということです。 子どもの権利条約では、第40条に少年司法の基本原則が書かれています。 ここでは、罪を犯した子どもについて、あらゆる手続を通して尊重され保護されることが必要とされています。少年司法の目的はそのことを通して、その子どもが、(1)自分自身は大切な存在であると認識し、(2)他の人の人権も尊重し、(3)社会復帰して建設的な役割を果たせるように促進することだとしています。日本における少年法の目的である「健全育成」は、理念として、これと合致するのです。しかし、実態は国連の基準からみると不十分であるばかりか、2000年少年法「改正」以降大きく後退しているのです。ちなみに、2000年「改正」は国連子どもの権利委員会から懸念が表明され、改善するよう勧告されています1。 少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ 1985年採択)や少年非行防止に関する国際連合指針(リヤド・ガイドライン 1990年採択)、自由を奪われた少年の保護に関する国連基準(1990年採択)等は子どもの権利条約と一体になる国際人権文書となります。 少年司法の基準として、まず、少年の権利保障が重要視されています2。できるだけ身体拘束や施設収容をなくし地域社会の中でサポートされるように求められています3。また、コミュニティにおける社会資源の活用、刑事裁判化の回避、刑罰の抑制という方向が明確に示されています。 非行防止のリヤド・ガイドラインも、「幼児期から子どもの人格や人権が尊重されること」として権利保障が軸になっています。その上で、社会の力を活用した福祉的・教育的な関わりによってこそ、非行は防止できるとしています。 これらを総括して国連・子どもの権利委員会で2007年に採択されたのが、一般的意見10号「少年司法における子どもの権利」4となります。 ここでは、司法の目的の一つとして公共の安全があげられていますが、「この目的の達成にもっとも役立つのは、子どもの権利条約に掲げられた少年司法の原則を全面的に尊重し実施することである」と書かれています。そして、他の条項と同じく、少年司法もまた権利を基盤とした運用をするよう、具体的に述べられています。 最後に、「罪を犯した子どもはメディアで否定的な取り上げ方をされることが多い。これによって、彼らのみならず、子どもたち一般に対する差別的・否定的なステレオタイプの形成を助長している。罪を犯した子どもを否定的に取り上げたり、または犯罪者扱いすることで、少年非行の原因について誤った提示をし、厳罰化を求める声に集約されていくことが多い。少年非行の根本的原因を理解し、これを作り出す社会問題について改善するため、権利を基盤とする取組をするように」とまとめられています。 少年法「改正」問題や少年非行・犯罪問題を考えるためには、こうした国際人権文書と照らし合わせることが不可欠です。しかし、なぜかこれらは無視されているのが現状です。 国連人権文書については資料ページを参照してください。 1 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/0402/pdfs/0402_j.pdf パラグラフ53と54 2 北京ルールズ第14条2項では、「手続は、少年の最善の利益に資するものでなければならず、かつ、少年が手続に参加して自らを自由に表現できるような理解し易い雰囲気の下で行われなければならない」としている。 3 北京ルールズ第19条は「少年の施設収容処分は、常に、最後の手段であり、かつ、その期間は必要最小限度にとどめなければならない」とある。この注釈に次のように述べられている。「施設収容の成功という点に関して、非施設収容と比較した差異は少しも否まったく見出されなかった。収容施設内において不可避と思われる個人に対する多くの不利益な影響が、処遇努力によって克服することができないのは明白である。とりわけ、否定的影響を受けやすい少年事件がこれにあたる。さらに、自由の喪失のみならず、通常の社会からの隔離による否定的効果が、少年にとってその成長段階ゆえに、成人より顕著であることは確実である。」 4 「一般的意見」とは、条約の解釈基準であり、条約実施についてのガイドラインともなるもの。 |
− 子どもの育ちと法制度を考える21世紀市民の会 (子どもと法21) − | |||