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審判への被害者等の傍聴等を内容とする少年法「改正」案について反対します
2008年5月9日 |
子どもと法・21(子どもの法制度と育ちを考える21世紀市民の会) |
- 少年法の目的は、「少年の健全育成を期す」ことにあります。事案の真相と適正な処罰の実現等を目的とする刑事訴訟法とはまったく異なります。少年法の目的を達するため、非行事実だけでなく、非行に至った動機・背景、家庭や学校など少年の置かれた環境、少年の資質、生育暦、性格など広範囲にわたる調査を行います。それが「健全育成」に適い、再犯防止に適うという考えでできています。少年審判はこうした趣旨で、非行事実だけでなく、広範にわたるプライバシー事項の確認もおこないます。さらに、少年審判は、少年の意欲への働きかけをするため、少年に向き合い、少年の言い分を十分聞きながら、少年の内面に働きかけるケースワークの場でもあります。だからこそ、少年審判は非公開なのです。子どもの権利条約第40条2項F及び少年非行運営に関する国連最低基準規則(北京規則)第8条では、同様の趣旨でプライバシー保護が規定されています。
- 被害者等が傍聴する制度になれば、上記のようなプライバシーにかかる事項については、率直に陳述したり、取上げたりすることが憚られることになりかねません。また、被害者等が傍聴することになれば、少年に対する責任追及を中心とした場になりかねません。そうなると、少年が萎縮して率直に語るのは困難であったり、混乱のまま語ったり、十分に自己の意見を表明することは難しくなります。そればかりか、防御の姿勢を固め、却って自己の問題から逃げてしまうおそれが十分あり得ます。それは少年法の目的である「健全育成」とは逆の方向です。
こうなると、審判は、表面的に表れた事実だけに基づく形式的なものになり、また、審判の対象がかぎりなく非行事実のみに近づいていく可能性が大です。これでは、少年法1条の目的は実質変化し、「小さな大人」のための「刑事裁判所」になってしまいます。逆にいえば、このことはまた、少年が再非行に陥らないようにするための必要な問題を取り上げることができなくなり、少年に対する適切な処遇が極めて困難になってしまうという問題でもあります。
ちなみに、少年非行運営に関する国連最低基準規則(北京規則)第14条は、「手続が、少年の参加と自由な自己表現を可能とするような、理解に満ちた雰囲気のなかで行なわれるべきである」と定めています。これは、こうした雰囲気でこそ真実が発見され、また、少年が自分の問題と向き合えるという考えに基づいています。
しかも、もともと少年審判は刑事裁判と異なり、犯罪時からそれほど長い時間は経ておらない時点でなされるのが大半です。被害者等においても事件から受けた心理的な衝撃がまだ大きい時期です。少年が自分の内面に向き合うまでには審判時点、その後の処遇という時間の経過が不可欠であり、審判段階ではまだ十分に向き合えない状態にあります。
くわえて、冤罪の可能性がある場合など、上述した被害者等の傍聴がなされると、率直に語るのは難しく、適正手続の面からも、真実発見の面からも問題が大きいと思います。
- 記録開示の拡大中、少年の身上経歴等少年及びその家族のプライバシーにかかるものの開示拡大についても反対です。
- 被害者等が、犯罪行為や動機等を知りたいと思うのは当然のことです。この点に関しては、2000年「改正」により、審判開始決定後の記録の閲覧・謄写、意見の聴取、審判結果の通知等の規定が盛り込まれました。それによりかなりの事実を把握できますし、2000年「改正」の被害者等への配慮により、場合によっては、少年や保護者の面前で意見を述べることも可能です。これらの運用を適正にすることが重要だと思います。また、被害者等へは裁判所より事件に関する情報を丁寧に伝えるべきだと思います。これらのためには、家裁の人的措置の充実が重要です。そして、被害者の権利保障は、少年審判の傍聴等でなく、別途、きちんと保障されるべきだと思います。
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