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少年法「改正」衆議院、疑問だらけの状態で強行採決
2007年4月19日

 3月23日、「少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している上、触法少年による凶悪重大な事件が発生しているなど、少年非行は深刻な状況にあり、法整備が必要とする」という提案理由が衆議院法務委員会で説明された。

 衆議院法務委員会では、3月28日から実質審議が始まった。以後4月10日、4月13日、4月18日に審議が行われた。

 上記提案理由(いわゆる「立法事実」)については、ことごとく論破され、その根拠がないことがほぼ明確になった。長勢法務大臣は「昔も、皆が驚くというか、深刻に受けとめる事件がおきていたことは事実だと思います」「いずれにしても、数が特段に多いか少ないかということもありますけど、何でそういうことが起こったとか、それから社会全体としてどういうふうに受けとめるかというようなことは、時代時代によって変わってくる」「同じことが起きても、驚きかたが違うとか、深刻度が違う」「昨今は、あいまいな事件が起きていることもあって、国民の皆さんから、こういうことに対してしかるべき対応をすべきだという要望が大変強い」と開き直った。

 今回の法案については、与党議員からも疑義が出た。

 14歳未満は福祉施設が適切であり、少年院送致は例外的にすべきである。5歳でも少年院送致はあり得るという長勢法務大臣の答弁があったが、与党議員からは年齢制限が必要、14歳未満の虞犯で少年院送致はおかしい等の質疑がなされたし、保護観察中に遵守事項の重大な違反があった場合の施設収容について、憲法上の「二重の危険禁止」に反するのではという質疑が与党議員も含めて出された。

 触法事件及び虞犯の調査については、現行ではなぜだめなのか質疑が出された。特に、虞犯の疑いについての警察への調査権付与については多大な疑問が出され、虞犯でさえ曖昧なのに、さらにその疑いとは何かとか、現行行われている「不良行為少年」の補導との関係等質されているが、あいまいな説明になっている。これに関して、奥野大臣政務官は「警察権で、世の中は警察を中心に大人たちは動いているわけですから、大人の仲間入りをさせるということも必要」と、とんでもない「本音」発言まで飛び出した。

 調査に関しては、冤罪、少年の被暗示性・被誘導性への危険性も指摘され、子どもの防御権をどう保障するかも与党議員含めて質疑が出された。しかし、長勢法務大臣は、「触法や虞犯少年は刑事責任を問うことではないので、黙秘権の問題は生じない」とし、むしろ「正直に話さなくてもよい、言いたくないことは言わなくてもよいと一律に義務付けると、正直に話をしなくてもよいという誤解を生じるというようなこともあり、健全育成のために資する資料、調査をする目的に沿わない」と答弁。保護者や弁護士の立会いの必要性に関係して、現行の「少年警察活動推進上の留意事項」にある「少年と面接する場合においては、やむを得ない場合を除き、少年と保護者その他適切な者を立ち会わせることに留意する」規定の運用に関する質問にも、片桐警察庁生活安全局長は「一体どういう実態で運用されているかについては調査をしていない」と無責任な答弁をした(実際は、少なくとも弁護士の立会いに関しては、ほとんどこの規定は無視されている)。14歳以上なら被疑者の権利があるし、まして、触法少年も少年院送致の可能性が出るとしたらおかしいではないかという疑問は当然のことである。

 さらに、この法案を出す前にすべきことが沢山あるのでは、それをしたか追及されているが、それも曖昧なままである。

 4月13日は公聴会が行われた。奥山真紀子国立生育医療センターこころの診療部長(公明党推薦)は「12〜14歳ぐらいにならないと、罪と客観的に向き合えず、少年院のプログラムに適さない」と指摘。さらに子どもの調査には、(1)子どもの心理を把握する警察官以外の第三者が、子どもが任意に話そうとしていることを確認する必要がある(2)事前に、子どもが信頼する人に連絡を取って事前に相談できることを説明する必要がある(3)調査が始まった後でも、子どもが「話すことの同意」を撤回できるよう付添人を入れる必要がある等と述べた。斉藤義房弁護士(社民党推薦)は、「警察の取調べは大人ですら虚偽自白をしてしまう。子どもはなおさら。改正する場合でも弁護士の立会いや調べ過程での録音・録画は欠かせない」とした。

 少なくとも、前回の「改正」法案の審議時に比べると本質的な観点から疑問が提起され、問題点が浮かび上がっていた審議であった。そのため、答弁する側の無責任さや物事の本質への無理解(例えば、5歳でも少年院というのは、矯正教育が何であるか理解できる年齢があるのではないか(保坂議員)という基本的な問題と密接に関係していることである)さが際立っていた。

 厚生労働省側の誠意のない説明についても指摘したい。

 村木厚生労働省大臣官房審議官は、「数は多くないが、開放処遇がむしろ子ども本人の落ち着いた生活環境を確保するという点でマイナスになるケースがある」「こうしたケースで処遇の選択肢を広げる意味で意義がある」「児童自立支援施設については、非常に難しい子どもが増えているというのが職員の実感」などとして、少年院送致の下限年齢撤廃を合理化している。しかしこの説明は実はめくらましで、必ずしも法案との関係を捉えた説明ではない。法案で少年院送致を予定する触法少年は重大な事件を起した子どものはずである。これと上記審議官が説明する「開放処遇ではマイナスになるケース」とか「難しい子ども」とは必ずしも一致しない。最近児童自立支援施設に入所する子どもは被虐待の子どもが急増している。難しいと言われているのは被虐待の子どもたちである。重大な触法事件の子どもについても虐待の問題はあるが、武蔵野学院の元院長は「重大事件は一過性非行が多く、必ずしも処遇困難ではない。児童自立支援施設の処遇は有効」(社会保障審議会児童部会・社会的養護のあり方に関する専門委員会 2004年10月21日の議事)と指摘しているのである。それに審議官の上記説明は現場の意見を必ずしも代表したものではない(なお、村木審議官は4月18日には重大事件の子どものケアについては成果を挙げてきたと答弁した)。

 触法事件でいえば、一定の重大事件について児童相談所から家裁へ原則送致については野党議員から、今の制度で何が悪いのか、子どもへの威嚇ではないかと質された。二つとも、福祉から司法へという基本が転換する重大なことであり、刑事責任年齢問題とも密接に関わる。

 そして、4月18日。与党は以下のような修正案を提出した。同日はこれに対する審議がなされた。

»(参照)少年法等の一部を改正する法律案要綱(政府案)

少年法等の一部を改正する法律案に対する修正案要綱(与党提案)

第1. 少年法の一部改正についての修正(第1条関係)
  1. 警察官等の調査に関する修正
    1) 警察官は、客観的な事情から合理的に判断して、いわゆる触法少年であると疑うに足りる相当の理由のある者を発見した場合において、必要があるときは、事件について調査をすることができるものとするとともに、いわゆるぐ犯少年に係る事件の調査に関する規定を削除すること。(少年法第6条の2第1項関係)
    2) 上記1)の調査は、少年の情操の保護に配慮しつつ、事案の真相を明らかにし、もって少年の健全な育成のための措置に資することを目的として行うものとすること。(少年法第6条の2第2項関係)
    3) 少年及び保護者は、1)の調査に関し、いつでも、弁護士である付添人を選任することができるものとすること。(少年法第6条の3関係)
    4) 質問に当たっては、強制にわたることがあってはならないものとすること。(少年法第6条の4第2項関係)
  2. 国選付添人制度に関する修正
     国選付添人の選任は、少年がその選任に係る事件について審判を終局させる決定前に釈放されたときも、効力を失わないものとすること。(少年法第22条の3関係)
  3. 保護観察中の者に対する措置に関する修正
     保護観察所の長の申請があった場合において、家庭裁判所は、審判の結果、保護観察所の保護観察に付する保護処分を受けた者がその遵守すべき事項を遵守せず、これを遵守するよう保護観察所の長から警告を受けたにもかかわらず、なお遵守すべき事項を遵守しなかったと認められる事由があり、その程度が重く、かつ、その保護処分によっては本人の改善及び更生を図ることができないと認めるときは、決定をもって、児童自立支援施設若しくは児童養護施設又は少年院に送致する保護処分をしなければならないものとすること。(少年法26条の4第1項関係)
第2.少年院法の一部改正についての修正(第2条関係)
  1. 初等少年院の収容者の年齢に関する修正
     初等少年院は、心身に著しい故障のない、おおむね12歳以上おおむね16歳未満の者を収容するものとすること。(少年院法第2条第2項関係)
  2. 医療少年院の収容者の年齢に関する修正
     医療少年院は、心身に著しい故障のある、おおむね12歳以上26歳未満の者を収容するものとすること。(少年院法第2条第5項関係)
第3.その他
 その他所要の規定を整備すること。


 虞犯の疑いへの調査は削られたが、本質的には政府案とは変わらない。新聞報道では、少年院送致は中学生以上とされていたが、同日の審議で、「おおむね12歳」とは「11歳、12歳」と答弁され、小学生も可能であることが判明。野党議員からは、そもそも少年院の下限が14歳とされているのは理由があるからで、その年齢については説明できなければならないと追及されたが与党提案者からは明確な理由は示されなかった。警察の触法少年への調査についても、対象の縛りが多少はかけられ、付添人選任権が明記されたが、基本的な黙秘権等「被疑者の権利」や付添人等の立会については触れられず、野党議員から追及された。しかも、与党議員からも、付添人選任権があっても子どもは選任できないから国選制度が必要ではとか、付添人の立会いや可視化が必要ではないかという意見が出た。後述のように、子どもの権利条約の一般的意見では権利基盤アプローチをせよとしているが、これらの点は無視されたままである。

 保護観察中の遵守事項違反については、文章上多少縛りをかけた。そして、政府案同様、二重処罰ではなく遵守事項違反という新たな事実が審判の対象であると説明する。だが保護観察になった事実も審判の対象になるし、また、もしそれが独立の審判の対象であるとするなら「遵守事項違反」は、少年法3条の「審判に付すべき少年」(非行少年)に加えるべきとなるが、その点明らかにされるべきである(与党提出者は、第4の審判事項ではないと説明した)。2007年2月2日国連・子どもの権利委員会は「少年司法における子どもの権利」に関する一般的意見を採択(一般的意見第10号)した。ここでも他の条項同様、権利基盤アプローチを核にしている。施設収容は「最後の手段でかつ最も短い適当な期間のみ」とされているし、「成人が行っても罪にならない行動上の問題」を「犯罪」として扱うことは子どもに対する差別であるとしている。この観点からいえば、虞犯さえ問題であり、「遵守事項違反」で施設収容というのは到底受け入れられないはずである。さらに、現行法では保護観察中に虞犯があれば虞犯通告できる。この運用も含め、なぜそれではだめなのか明らかにならなかった。


 このように、疑問は解消されない状態であった。しかも、当日出された修正案であり、議論がかみ合わない状態ではないので、もっと議論をすべきだという野党議員の声を押し切って、同日夕方、与党修正案をもって強行採決が行われたのである。これには自民党内からも「拙速だ」との声が漏れた。

 なお、毎日新聞の報道によれば民主党は政府案に対し以下のような修正案をまとめたという。
 触法少年の事件での警察の調査は児童相談所長の要請を受けた場合又はその同意を得た場合に限定。警察が事情を聞く場合は弁護士や児童福祉司らが立ち会える。事情を聞く場合はすべての経過を録画・録音する。少年院は「おおむね14歳以上の者を収容する」。

 今回の「改正」案(与党修正案も含む)は、立法事実がないことが明確になったし、各事項とも的を射た議論で数々の疑問が浮かび上がったにもかかわらす、結局与党は数で押し切ったのである。

 しかし、まだ参議院がある。今回のきちんとした議論を継続できれば、更に疑問は深まると思われる。もっともっと私たちの意見を議員に届け、廃案に追い込もう。

 会議録は、「国会会議録検索システム」で見られます。また、民主党平岡秀夫議員のホームページ「平岡秀夫の今日の一言」(4月18日)及び社民党保坂展人議員のブログ「どこどこ日記」の4月18日には、法案の問題点や強行採決の問題が詳述されています。

− 子どもの育ちと法制度を考える21世紀市民の会 (子どもと法21) − 関連サイト 事務局通信
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